14.down tempo系
15.choir系
16.ピクチャー盤
17.strings
18.europe
19.eurojazz
20.usjazz+reissue
21.usjazz
22.jazz+latin
23.monica
24.delerue
25.forktronica
26.euro Jazz 02
27.italian jazz
28.electronica+bossa
29.jazz_new
30.old & new
31.mirabassi & others
32.beat & soft rock
33.chill out & bop
34.post rockeletronic
35.acoustic
36.british jazz
37.morr+jazzland
38.hip hop
39.eurojazz+reissue
40.euro+french
41.acoustic+nordic
42.jazz+bossa

Vertov, l'unomo con la Macchina da Presa

Jazz Works
「Vertov, l'unomo con la Macchina da Presa」Buscemi &
The Michel Bisceglia Ensemble
/ Plova Records
「Jazz Works」Buscemi & The Michel Bisceglia Ensemble /
BLUE NOTE
 これは今年初め、あるレコ屋の中古売り場でシールド未開封のまま、「発見」した。ジャケに強く惹かれたのは、ロシアのジガ・ヴェルトフが1929年に撮った実験的なドキュメンタリー映画『カメラを持った男』の有名なスチールをあしらっていたからだ。もちろん買って帰って調べたが、なんと世界のどこでもこのCDが発売されている形跡はなかった。それがなぜ日本で、未開封の中古として流通することになったかいまだに不明。Buscemiがヒップホップ系のアーティストですでに有名であることやMichel Biscegliaがベルギーのジャズ・ピアニストであることもわかった。しかもすでにこの両者は「Jazz Works」という作品を共作していることも知ったが、こちらも日本には未入荷のようだった。ところでイタリア語のタイトルを翻訳してみるとまさに「カメラを持った男」。日本で発売されているDVDには、あのマイケル・ナイマンが曲をつけている。しかし、だ!映画を観ながらこのブシェーミとビスチェリアの音楽を流すと見事に雰囲気が合っているのである。しかもこの音楽がまたとてつもなくカッコいいのだ。古いサイレント映画に即興のジャズ演奏をつける試みは過去に二度、経験がある。97年に東京のドイツ文化センターでヴァルター・ルットマンの『伯林大都会交響楽』(27)の上映でスクリーンの脇でサックスとクラリネットが生の即興演奏したもの。二度目は03年に京都のドイツ文化センターでMatthias Stichのコンボがやはりドイツのサイレント映画(『日曜日の人々』だったか?)に即興演奏したもの。しかしこのブシェーミとビスチェリアCDはもっと計算された緻密なものだ。ジャズでもヒップホップでもなく、でもビートとピアノやホーンやストリングスのアンサンブルがメロディ的基幹とそれを打ち破る絶妙なアブストラクトさに満ちていて、これはもうジガ・ヴェルトフの映画同様、世紀の傑作と言うしかない。もちろん映像無しで音楽だけでも印象は変わらない。
 そんなわけで「Jazz Works」のほうもイギリスのAmazonで購入した。こちらはヴォーカルも入って、よりわかりやすい音楽だが、それでもこれもジャンル分け不能なノンジャンルの傑作だった。なんと2曲、ヴォーカルであのイザベル・アンテナが参加している。2011年4月、「Vertov, l'unomo con la Macchina da Presa」のほうもイギリスのAmazonで購入できるようになった。
「Second Breath」Michel Bisceglia / Plova Records
 という流れで必然的にミシェル・ビスチェリアの旧作を英Amazonで購入。2003年録音の本作と2002年録音の「Night and the Music」を聴いたが「Night and the Music」はガーシュインやコール・ポーターのスタンダード集ということで、ちょっと驚いた。しかもその翌年に出たこちらの作品は、まったく趣を異にしたコンテンポラリーなトリオ作品。全11曲のうち3曲を除いた他は自作曲。そのどれもがとても現代的、思索的な曲調で、いかにもヨーロッパのインテリなジャズ・ピアノといった感じで美しい。ベルギーを拠点に自分のレーベルを持っているが、それゆえ日本ではちょっと入手しづらいようだ。
Poesia
「Poesia」Edward Simon / ComeJazz
 これはレコ屋でジャズのアナログ盤を探しているときにかかった曲が、すごく美しいメロディのピアノ・ソロで、思わずこの曲は?と訊いて、即買いしてしまったものだ。それまでエドワード・サイモンのことはまったく知らなかった。南米ベネズエラで1969年に生まれ、15歳でアメリカにピアノを学ぶために留学し、90年代初頭から頭角を現してきたという。泣けるほど美しいメロディの1曲目「MY LOVE FOR YOU」はオリジナル作品だ。2曲目以降はどんどん緻密で現代的な演奏になってゆき、今のジャズらしい緊迫感のあるトリオ演奏を聴ける。ベースのJohn Patitucciの演奏がまた良い。

My Vocalese Fun Fair
「My Vocalese Fun Fair」Giorgio Tuma / Production Dessinee
 イタリアのジョルジオ・トゥマを知ったのは神戸のプロダクション・デシネからのメールで新作を大推薦していたからだ。そこでYouTubeで調べてみるとけっこうUPされている。しかも2作目の楽曲がCD収載の1/3くらいはダウンロードできてしまった。でも、この2作目は買った。60〜70年代のイタリア・サントラ、ソフトロックなどの影響だけでなく、日本のコーネリアスも大好きだというトゥマのつくる曲は究極のポップチューンと言ってもいい。声でいうとキング・オブ・コンビニエンスに近いが、キング〜の6年ぶりの新作が前作とまったく変化なく面白みが欠けていたのを思うと、トゥマの作品のバリエーションに富んだ曲作りのうまさには感心させられる。YouTubeでは下記のものが楽曲も映像も素晴らしい。
http://www.youtube.com/watch?v=xoLpBgdU2YE

Night & I Are Still So Young
「Night & I Are Still So Young 」Heavy Blinkers /
Endearing Records
 カナダのハリファックス出身のヘビー・ブリンカーズは日本での最初のCD、彼らにとっては3枚目にあたる「Better Weather」をジャケ買いして知った。どの曲もすばらしく美しいメロディで、思わずビーチボーイズを思い起こしたが、案の定、このグループのリーダーともいえるギターのジェイソン・マキザックの好きなグループは、ビーチボーイズを筆頭にゾンビーズ、トッド・ラングレン、バート・バカラックなどだという。メロディとハーモニーの美しいソフト・ロックとしてこれは今のバンドのなかで屈指の部類、といっても本作は2004年のものだが。タイトル曲はYouTubeにPVがUPされているので、こちらで彼らの演奏も見れる。名曲だと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=XEaz_Z7sZuA

A Chave Do Succeso
「A Chave Do Succeso」Orlann Divo / whatmusic
 オルラン・ヂーヴォの62年録音のデビュー・アルバムが2002年に日本で世界初CD化されていた!というのを知らずに最近アメリカのAmazonで発見、ここに紹介するわけだが、日本での知名度は低いが60年代からブラジルでは人気のあったポップ・シンガーでもある。ボッサノヴァというよりはバランソ、いわゆるサンバのリズムとジャズを合体させたもので、そのノリの良さは1曲目の素晴らしいグルーヴで一気に引き込まれる。これはダンスホールで聴く音楽だったのだから。ちなみに若き日のジョルジ・ベンが熱狂的なヂーヴォ・ファンで、自分で書いた曲を彼のところに持ち込んだ。それがあの名作「マシュ・ケ・ナダ」である。

Divine Comedy
「Divine Comedy」Milla / SBK Records
 『バイオハザード』シリーズであまりにも有名になってしまった女優のミラ・ジョボヴィッチが1994年に最初のCDを出していたことは、ほとんど知られていない。僕はファンでもなんでもないが、出身地のウクライナ地方の民謡をアレンジしているということに興味を持って買ってみた。ウクライナ民謡は1曲だけで、他はどちらかというとブリティッシュ・トラディショナル・フォークやケルティッシュなものを思い起こさせるオリジナル。ミラも詞を書き、作曲にも参加している。ちょっと癖のある歌い方で好みが分かれると思うが、バックのアコースティックのアレンジも素晴らしくハマってしまった。ほとんどの曲にあの名プロデューサー兼マルチ・プレイヤーのルパート・ハインが絡んでいるから出来も良くなろうというものだ。10曲目の「You Did It All Before」のメロディの美しさは特筆もの。
Time Has Come 1967-1973
「Time Has Come 1967-1973」Pentangle / Sanctuary Records
 ミラ・ジョボヴィッチのトラディショナル・フォーク調を聴いて思い起こしたのが、イギリスのペンタングル(似てはいないけれど)。ギターのバート・ヤンシュ、ジョン・レンボーン、ヴォーカルのジャキー・マクシーを中心に1967年に結成された元祖ブリティッシュ・トラディショナル・フォークとも言うべきバンドだ。思えばジョン・レンボーンの中世の古楽的なソロ作品は持っていてもペンタングルとしては持っていなかった。そこで見つけたのが、この4枚組BOXセット。日本盤はすでに廃盤でかなりの高値。日本盤の元になったUK盤を英Amazonのマーケットプレイスで新品、しかも送料を足しても3000円ほどで入手した。これがかなりマニアックな内容で未発表音源が20曲以上。幻だった映画のサントラとしてつくった曲まで収録されている。しかも本のようになったBOXセットのブックレットが充実していて、ものすごくお買い得。一段落したフォークトロニカ的流行から、このあたりを遡ってみると、そのテクニックと熱気をはらんだ演奏にびっくりするかもしれない。

Emballade
「Emballade」Julverne / beatball records
 と、こんなふうに最近は、新譜と古い作品を行き来することが多いのだが、古いものだとなぜ当時出会ってなかったのか不思議に思うものもある。ベルギーのチェンバー・ロック(弦楽器などを用いたクラシック風のロック)を代表するジュルヴェルヌもそのひとつ。この「Emballade」が発表されたのが83年。73年だったらハマっていたことだろう。それくらいレトロ趣味の音楽だ。1900年から1920年代くらいまでのヨーロッパを思い起こさせる演奏は、どうにもロックの形容は当てはまらない。まるで映画音楽を聴いているような感じだ。ジャズでよく奏られている「キャラバン」なんて、まるで20世紀初頭のコロニアリズムのエキゾティック風味仕上げという具合。紙ジャケ仕様のCDが日本で再発されたが、すでに廃盤で、これはebayで安価な韓国盤を買った。豪華な見開きジャケでおまけにポスター大のベルギー・チェンバー・ロック・シーン相関図まで付録になっていて、これがまたものすごく小さな字で恐ろしく詳細を究め、とても読む気にもなれない。ちなみに発売当時のヴァイナルにはこんな相関図は付いてなかったそうだ。

kalima!
「kalima!」Karima / LTM
 同じく80年代に活動し、いまやまったく忘れられた感のあるKalima。じつはこれも当時、行き当たっていなかった。恥ずかしいかぎりだが、CD化された彼らの音楽を今、聴くことはできる。クラブ・ジャズといえば、ジャズ・ディフェクターズのダンスあたりから入ったが、カリマはそれ以前に登場し、初期のSwamp Children(82〜)名義で1枚、Kalima名義でのフル・アルバムは、3枚リリースされた。他に12インチシングルがいくつかあるが、それらヴァイナル盤はすべて再発のCDにボーナス・トラックとして収録されている。驚くべきはKalima名義になった86年の「Night Time Shadows」で、すでにここ10数年くらいのクラブ・ジャズのテイストをすっかりこなしていることだ。たとえば、このコーナーで紹介したThe Five Corners Quintetの2005年の音と同じような音を20年も前に出していたということで、ほんとうにもうこれは早すぎた天才の夭折としか言いようがない。掲載した「Kalima!」(88)はセカンド・アルバムで、この美女はヴォーカルのアン・クウィッグリー。彼女はSwamp Children時代からずっとリード・ヴォーカルをとり続けた。そして90年に「Feeling Fine」を出して、この素晴らしいバンドはシーンから消えてしまう。カリマ名義時代の作品は、ストレートアヘッドなジャズからボッサ・ジャズまで、けして上手いとはいえないがじつにセンスのいい演奏で、どれを聴いても素晴らしい。凡庸なバンドは有名になり長生きし大衆に愛されるが、こうしたセンスの良すぎるバンドはあまりに少数にしか認められず消えていってしまう。そう、人生とは不公平なものだ。
©Hitoshi Nagasawa 無断転載を禁ず。2011/05/01