14.down tempo系
15.choir系
16.ピクチャー盤
17.strings
18.europe
19.eurojazz
20.usjazz+reissue
21.usjazz
22.jazz+latin
24.delerue
25.forktronica
26.euro Jazz 02
27.italian jazz
28.electronica+bossa
29.jazz_new
30.old & new
31.mirabassi & others
32.beat & soft rock
33.chill out & bop
34.post rockeletronic
35.acoustic
36.british jazz
37.morr+jazzland
38.hip hop
39.eurojazz+reissue
40.euro+french
41.acoustic+nordic
42.jazz+bossa
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monica zetterlundモニカ・セッテルンド monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
 今回はかねてからやりたかったモニカ・セッテルンドのBOXセットの紹介をしたい。
 最初にモニカのことを知ったのは、小さなジャズクラブのステージ側から撮った写真で、そこにはステージにシンプルなワンピースで立つモニカの美しい横顔とそれを真剣な顔でみつめる若者たちが写っていた。そもそもこの角度から撮影しているのが、珍しいと思ったし、1950年代末らしい雰囲気も良かった。それは『Spring is Here』と題されたアルバムで、このジャケット写真だけで僕は彼女のファンになった。その後ビル・エバンスと共演した『Waltz for Debby』を買い、彼女がスウェーデンの女優でヴォーカリスト、しかも60年代に来日していることも知った。このアルバムの大半は英語で歌われているが、僕が最も感動したのは、当地の民謡をジャズにアレンジしてスウェーデン語で歌った数曲で、ビル・エバンスのセンスもさることながら、モニカの声と「スウェーデン語の響き」に魅了された。
 ちょうどこのアルバムを聴いている頃、夜中に何回かビデオで観返していた映画が『Early Spring』(邦題)という86年に制作されたデンマーク映画で、1930年代、貧しいアパルトマン群の「中庭」(ヨーロッパの街には、よくそういう中庭がある。かのエディット・ピアフもそうした中庭で唄っていた)を舞台に詩の好きな少女が、その貧しさゆえにいろいろ嫌な思いもしながら成長してゆく、という物語だった。なかで主人公の少女が学校で他の生徒の前で先生に「歌は嫌い?」と訊かれるシーンがある。彼女は家で歌っていると言って「インターナショナル」(革命歌)を歌い、みんなの嘲笑を浴びる(革命歌が場違いだったことと、家が貧しいとわかってしまった、ということ)。日本語だと「起て、飢えたる者よ」で始まるこの歌のデンマーク語は素敵だった。この歌やいくつかのシーンの台詞をデジタルに録音し直し、iPodに入れてデンマーク語に浸っていた。スウェーデンとデンマークのふたつの春(Spring)が、僕のなかで音として交差していた。
 その後、モニカの当時のアルバムはあまりに高値なのを知り、このBOXセットをヤフオクで落札した。ほぼ新品でたったの3,400円だった。でも、その内容の素晴らしさや豪華さで僕の至上の「宝物」となった。1枚あたり25曲程度を収録したCDが6枚。50ページのブックレットはデザインも素晴らしく、貴重な写真がたくさん掲載され、僕は毎晩、一語もわからないスウェーデン語の文章を読みながら眠りについた。このBOXセットがいつ頃売られたのかを調べるために、ネットで随分と検索したが、95年ということ以外ほとんど情報がなかった。スウェーデンで作られ、日本にも多少、入荷したが、すでに当地でも絶版になっているようだった。海外も含めて売っているサイトは、ひとつもなかった。その後、ヤフオクにも一度も出ていない。
 一生の間に出会える素晴らしいレコードは沢山ある。だが、僕はこのBOXセットで、北欧に僕が知らなかった、とても美しく甘美な世界があることを識った。(長澤 均)
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
アーリー・スプリング Bandommens Gade 左の写真はデンマーク映画『アーリー・スプリング』(原題Bandommens Gade )から。貧しい家庭の少女で詩を書くことが趣味の主人公エスター。1930年代を舞台にしているが彼女のベレー帽姿や、コートなどファッションも可愛らしい。貧しいアパート群の中庭が舞台で、彼女がそこを出ることが思春期との決別を暗示するような映画。淡々と短いエピソードを積み上げていく監督の手法もいいし、音楽も素晴らしい作品 
monica zetterlundモニカ・セッテルンド More Than You Know 1957-1959
モニカは1937年9月20日にスウェーデンのハーグフォルスに生まれた。両親も音楽家で彼女もすでに10代から歌っていて、58年にスウェーデンを代表するアルト奏者アルネ・ドムネルスのバンドのシンガーとなって注目され、この年の3月、最初のアルバム『Swedish Sensation』を録音している。このセットの1枚目にはしかし、それ以前、彼女がイブ・グリンデマンのバンドにいた1957年に録音した曲が4曲収録されている。未発表の録音だろう。それ以外にも、まず入手不可能なEP『Swedish Sensation』や『Swedish Sweet』から計7曲も収録されており、初期の彼女の初々しさが堪能できる。全曲、英語で歌われている。
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド Monicas Vals 1960-1964
58年にデビューしたモニカが60年にはニューヨークのBell Sound Studioでピアノのジミー・ジョーンズやテナーのズート・シムズ、辣腕プロデューサー、レオナード・フェザーとの作品を残していたのは、最近まで知られていなかった。90年代にリリースされたその未発表LPを中心にゲオルグ・リデルスのオケをバックにした62年の2作目のLP(これはアレンジも良くない)から多くを収録している。が、のちにも何度か録音する「Ack,
Varmeland du skona」(ストックホルムの古名で、美しき我がヴァルムランドというような意味)や「Fly Me to the Moon」をスウェーデン語で歌った「Med Andra Ord」など他の60年の録音が泣けるほど美しい。
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド Come rain or come shine 1964-1967
64年のビル・エバンスとの共演『Walz for Debby』を中心にその前後2枚のアルバムからの作品を中心に構成されている。スコット・ラファロ亡きあとビルが結成した新トリオ(ベースにチャック・イスラエル)が、素晴らしいバックとアレンジで、このBOXセットのなかでも白眉といえる1枚だ。なかでもスウェーデン語で歌う「Jag vet en dejlig rosa」(美しき薔薇)は、このうえなく美しく僕が彼女のファンになるきっかけともなった曲である。「Walz for Debby」は「Monicas Vals」と名を変えてスウェーデン語詞がつけられ歌われている。彼女はその後もこの曲を録音しているが、やはりビルと共演したこの作品にはかなわない。
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド I valet och kvalet 1967-1973
1967から73年に出た4枚のアルバムから選曲したこの4枚目のCDを聞くと、時代の変化もあって、それまでの正統なジャズ・ヴォーカルからもっとポピュラーな方向に変化していってるのがわかる。いまひとつの曲もあるが、このセットを代表する名曲揃いのCDであるのも確か。とくにブラジルのヴィラ・ロボス(1887-1959)が作曲したクラシックの「バッキアナス・ブラジレイラス」(ブラジル風バッハ)に歌詞をつけた『Sov』は、彼女の全作品のなかでも最も美しい仕上がりではないだろうか? ちょっとかすれた声で淋しそうに歌う曲はどれも絶品だ。『男と女』で始まる本CDは収録曲がすべてスウェーデン語。それも素晴らしい。
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド Under vinrankan 1975-1993
1975年に出た『Hej,mani』は、ジャズからまったく離れ、スウェーデンの古謡のような曲やボサノヴァなどしっとりとした曲が多く、このアルバムからは5曲収録されている。76年にもう一枚、80年代には4枚のアルバムを出したモニカは91と93年にも作品を発表している。89年の『Monica Z』ではボッサのドリ・カイミの作品までやっていて、デビュー時のアメリカ・ジャズを志向していた頃からの大きな変化を感じさせる。もっともすでに齢50代後半なのだ。のちに発見された60年代の録音をLP化したものを含めてアルバム総数は18枚。93年の作品では、かつてのハスキーな声は柔らかな声に変化しているが、それも重ねられた年輪の美しさと言えよう。
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
monica zetterlundモニカ・セッテルンド Underbart ar kort 1959-1976 LIVE & REVY
BOXセットの最後は、モニカが出演したレヴューやミュージカルでの彼女のヴォーカルを集めたものだ。正直言って、ミュージカルなどの世界は苦手だ。ただ、ここに収録された作品は、他のEPにもアルバムにも収録されていないのでひじょうに貴重な資料だ。モニカは脇役もふくめてこれまでに13作の映画にも出演している。リブ・ウルマンとの共演作などもあるが日本では、ほとんど公開されたこともないだろう。モニカの歌は大きくはジャズとポピュラーに、そして英語と母国語にわかれる。好みはそれぞれだろうが『Sov』1曲で、いかに彼女が素晴らしいかわかるし、僕は一生、飽かずにこの曲を聴き続けることだろう。それほどに美しいのだ。
monica zetterlundモニカ・セッテルンド
©Hitoshi Nagasawa 無断転載を禁ず。2003/11/30
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