14.down tempo系
15.choir系
16.ピクチャー盤
17.strings
18.europe
19.eurojazz
20.usjazz+reissue
21.usjazz
22.jazz+latin
23.monica
25.forktronica
26.euro Jazz 02
27.italian jazz
28.electronica+bossa
29.jazz_new
30.old & new
31.mirabassi & others
32.beat & soft rock
33.chill out & bop
34.post rockeletronic
35.acoustic
36.british jazz
37.morr+jazzland
38.hip hop
39.eurojazz+reissue
40.euro+french
41.acoustic+nordic
42.jazz+bossa
music_new
 2003年11月22日、まさにこれを書いているタイミングでフィリップ・ド・ブロカの『まぼろしの市街戦』のDVDが発売された。字幕が後年の凡庸な版なのが残念。この字幕の前にもっと文学的な名訳があってずっと良かったのだが、もはやその字幕は幻の存在のようだ。発売元IMAGICA/Cinefil
 仕事が忙しく1ヶ月空いてしまったが、その間にフランスの映画監督フィリップ・ド・ブロカの作品にジョルジュ・ドルリューが音楽をつけたものの集成が2枚のCDとなって発売された。かねてから一度、ドルリューの特集を組みたかったので、今回もまた特集、それもジョルジュ・ドルリューだ。
 それにしてもそう知る人も多くないブロカの作品がこんなかたちで発売されるとは想像もできなかった。フィリップ・ド・ブロカ(33〜)は、フランソワ・トリュフォーの助監督から監督になった人物で、『まぼろしの市街戦』(66)『カトマンズの男』(65)『ピストン野郎』(64)(彼の映画で好きなものを作品順に並べてみた)など、ちょっとB級くさい活劇やコメディものを多く作ってきた。だが、彼の映画には誰にもマネのできない文体と文学性があって、僕にとっては、ゴダール、トリュフォーの次に好きな監督だ。『まぼろしの市街戦』を二十歳の頃、名画座で見て完全にハマり、TVでやったときには8ミリフィルムを回して好きなシーンを画面撮影までした(ビデオなんてなかった時代のことだ)。
 第一次大戦のさなか中世風の城塞都市の広場にドイツ軍が爆弾を仕掛ける。町の住人はみんな逃げ、精神病院の患者だけが取り残される。そこにフランス軍の伝書鳩係が偵察を命じられる。しかし、ドイツ軍兵士に発見された彼は精神病院に逃げ込む。そこでトランプをしている連中からハートのKINGを引いてしまったために「王様」扱いされ、やがて誰もいなくなった町は、精神病患者が、それぞれ貴族や僧侶や娼婦を演じ、なんとか爆弾の在処を見つけようと奔走する「王様」を追い回し、自分たちの王国を(あくまで観念のだ)作り上げてしまう。彼らを何とか救いたい伝書鳩係によって爆弾は発見され、ドイツ軍とフランス軍は全員が同士討ちで死ぬ。すると町の住人が戻ってくる。それまで「王様」のまわりでそれぞれの役割を担っていた精神病患者たちは、「芝居は終わった」と言って、自ら衣裳を脱ぎ捨て精神病院へと戻ってゆき、鍵をかけ門を閉ざす。彼らはそれまで「王様」と崇めてきた伝書鳩係に「あなたもお仲間のところにお戻りなさい」と諭す。狂気は、どちらの側か、と問う作品だ。さながらヴィリエ・ド・リラダンの「ヴェラ」のような終幕。それでいてコメディでもあるのだ。
 『ピストン野郎』はTVでしか見たことがないが、全編をテープにとって台詞を暗記した。ロマンチックな会話の背景にはいつもドルリューの音楽があった。ジャン=ピエール・カッセルがカトリーヌ・ドヌーブに訊く。「どこまで帰るの?」「1キロ先のアルジェンチーヌよ」「そりゃ、大変だ。僕の自転車に乗っていきなよ」「怠け者のあなたが漕ぐの?」
 二十歳の頃の僕は、恋愛とはこのようなものだと思っていた。そしてそんなときバックにはドルリューの音楽が流れているはずだ、とも。
 フィリップ・ド・ブロカの作品は、ほとんど見たし、詳細なブロカ論も書けるが、そんな機会は誰も与えてくれない。しかもごく一部しかビデオ化されていないから興味のある人間も、数少ないことだろう。僕が最初にドルリューに感動したのはブロカ作品でだ。そのあとトリュフォーの『恋のエチュード』(71)のサントラなどを買い集めていった。2002年、C&R社で「映画の見方」についてのセミナーで講演したとき、貴重なドルリューのインタヴュー映像を流した。彼は言う。「映画には音楽は多すぎても少なすぎてもいけない」。けだし名言である。ただ80年代以降のドルリュー作品には、あまり興味はない。そもそも映画自体、凡庸なものが多すぎる。ここで紹介するのは、彼の最も良い時代の作品群だ。残念ながら『恋のエチュード』は入っていない。CDの盤面を傷つけて捨ててしまったからだが、それが今や廃盤とは!(長澤 均)
『まぼろしの市街戦』公開時のポスター
フィリップ・ド・ブロカ初期6作品のポスター下段左が『ピストン野郎』、真ん中が『カトマンズの男』
『大盗賊』撮影現場でのブロカとベルモンド
philippe de brocaフィリップ・ド・ブロカ Le cinema de Philippe de Broca musiques de George Delerue 1959-1968
前述したブロカ黄金期の傑作3作品ほか、全9作品が収められた、ブロカとドルリューのファンにはこれ以上、望みようもないような1枚。ブロカの古い映画は『カトマンズの男』や『リオの男』(63)以外、あまりレンタルビデオ店などにも置いてないが、『カトマンズの男』は必見。ジャン=ポール・ベルモンドが東南アジアからヒマラヤまで走り回り、飛び込んでばかりの活劇。僕はウツになるといつもこの映画を繰り返し見てきた。人生は、このドタバタ喜劇のように生きるべきだと教えてくれる素晴らしい映画。ちなみにベルモンドはお金が有り過ぎて退屈して、死にたくなっているという皮肉な設定。
philippe de brocaフィリップ・ド・ブロカ Le cinema de Philippe de Broca musiques de George Delerue 1969-1988
ブロカの作品も80年代以降、激減するがそれ以前はロマンチックな『君に愛の月影を』(69)や作家役ベルモンドの夢想と現実が交差してしまう『おかしなおかしな大冒険』(73)(音楽はクロード・ボラン)『ベルモンドの怪盗二十面相』(75)などのヒット作を世に出していたし、どれも出来も良かった。日本未公開作に『Chere Louise』(72)というジャンヌ・モロー主演の映画があるが、これなどドルリューの音楽も素晴らしい。彼の作品も80年代に入ると微妙に変わってくる。ロマンチシズムに変わりはないが、それでも老成してしまったというか……。しかしこのようなかたちでブロカ=ドルリュー作品がまとめられたことは、驚くべきことだ。この2枚は絶対に買っておくべき!
まぼろしの市街戦フィリップ・ド・ブロカ King of Hearts /United Artists
これは『まぼろしの市街戦』公開当時の米国のオリジナルサントラ盤。カナダのあるメーカーが制作したというCD-R(CDではない)が、秋頃、ヤフオクで18,000円で落札されて吃驚したが、中身はこれと同じものだ。かつてレイモン・ラディゲ原作の『肉体の悪魔』がクロード・オータン=ララによって映画化され(47)、ジェラール・フィリップと共演したミシュリーヌ・プレールのとろけるような美しさに感動したが、この『まぼろしの市街戦』では彼女が娼婦役で登場する。すでに齢50近かったはずだが、彼女が精神病院から抜け出して娼館に戻り、鏡の埃をぬぐって化粧するシーンは、バックに流れるドルリューによるテーマの切なさもあって、この映画を一生忘れられないものにしている。
Bernardo Bertolucciベルナルト・ベルトリッチ Il Conformista /Cinevox Records
イタリアのベルナルト・ベルトルッチの大傑作『暗殺の森』(70)のサントラ盤。映画を物語や、そのドラマ的蓋然性で語る人間には、この映画に関する批判も多いが、僕にとってこれ以上に美学的にすごい映画はちょっとない。登場するファシズム建築の数々、どの画面でも完璧に計算された構図、時間の前後を無視して過去、現在を交錯させる手法、編集のリズム、光と陰、衣裳、色彩、すべてが完璧で批判しようもない。物語的緊密性云々など、原作者のモラヴィアに呉れてやればいいではないか! さて、サントラとして聴くとドルリューのこの時期のものとしては、ちょっと印象が弱いのは、他の作曲家の当時の曲が入っているからか(これがけっこうイイ)? CDだが、すでに廃盤。
Jean-luc godard軽蔑 Le Mepris /Edition HORTENSIA
ジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑(Le Mepris)』(67)のサントラをメインにヌーヴェル・ヴァーグの映画音楽を集めた「Film Music Collection」。よってミシェル・ルグランが音楽を担当したアニエス・ヴァルダ『5時から7時までのクレオ』(62)のようにドルリュー以外の作品も収められている(ちなみにこの作品は全曲歌もので良い曲ばかりだ)。アラン・カヴァリエの『さすらいの狼』(64)もいいが、出色はやはり、あの地中海に面した別荘でのけだるい午後を思い起こさせるゴダールの『軽蔑』のテーマだろう。同じシリーズでトリュフォーの『恋のエチュード』なども出ていたが、今はすべて廃盤のようだ。
georges delerueジョルジュ・ドルリュー Georges Delerue 30Ans de Music de film /ODEON SOUNDTRACKS
ドルリュー作品集みたいなものは英国盤などいくつかあるが、はっきり言ってこれを手にいれたら他はもう必要ない、と言っていいほどの充実したCD2枚組作品集。ブロカの諸作品からゴダール、トリュフォー、その他、僕のよく知らない監督の作品まで、なんと47作品から57曲を集めている。1枚目のCDがトリュフォーの傑作、ジャクリーン・ビセット主演の『アメリカの夜』(73)で終わり、2枚目がカトリーヌ・ドヌーヴ主演の『終電車』(80)で始まるあたりの選曲はトリュフォー好きにとっては泣けてしまうものだ。ジャン・ベッケルの『殺意の夏』(83)など、観た当時のことやイザベル・アジャーニの美しさを思い出して感慨に浸らずにはいられない。
JULIA and other works of Delerue /King Record
『ジュリア』(77)は、劇作家リリアン・ヘルマンの自伝的作品をフレッド・ジンネマンが映画化した作品で、ナチ政権下、ヨーロッパで反ナチ抵抗運動に荷担するジュリア(バネッサ・レッドグレーブ=この気品ある美女は実生活でも筋金入りの左翼だ)と、リリアン(ジェーン・フォンダ)の友情を描いた佳作。ドルリューの音楽も感動的だが、無教養なアメリカ大衆には理解されるべくもなくサントラさえも発売されなかった。8曲入りのカナダ盤が出て、日本ではA面に「ジュリア」から7トラック収録のこのサントラが発売された。B面はバークレー音源の過去のドルリュー作品集。『ピストン野郎』のテーマが聴けたのが、何よりも嬉しかった。
Le Dernier Metro /Odeon Record
何といってもカトリーヌ・ドヌーヴが美しかった『終電車』(80)。作品としてもトリュフォーの終幕を飾るものだったように思う。その後、彼が監督したのは『隣の女』(81)、『日曜日が待ち遠しい!』(82)の2作だけ。しかもどちらも出来の良い作品とは言い難かった。『終電車』のテーマはいつものドルリューらしい美しく繊細なメロディだ。舞台となった戦時中を感じさせるものではないが、そこがまた良いのだろう。このアナログ盤サントラではA面に劇中で使われた38年から42年までのシャンソンが6曲収めてあって、これも聴きどころ。リナ・ケッティやリュシェンヌ・ドリールなどの歌声が懐かしい。
Jules et jim突然炎のごとく Jules et Jim /PROMETHEUS Records
トリュフォーの『突然炎のごとく』(61)のサントラをA面に、B面には日本未公開の『La Cloche Thibetaine』(74)を配したカップリングCD。『突然炎のごとく』は第一次世界大戦前後にわたって二人の男と一人の女の恋愛を描いた佳作だが、衣裳考証などがいまひとつ。後年の『恋のエチュード』は、一人の男と二人の女の関係だが、こちらのほうが映画も音楽も、断然良くできていると思う。『突然炎のごとく』はヌーヴェル・ヴァーグの神話化されすぎたきらいがある。ところでB面の映画に関しては、まったく知らないが、音楽もまったく面白味なし。ドルリューはたまに歴史物的大仰な作品を作るが、それはポール・マッカートニーが甘いポップスが最高なのに、たまに似合わないハードなロックを作って失敗するのによく似ている。
cartouche大盗賊 Cartouche/PROMETHEUS Records
上記と同じレーベルから出たフィリップ・ド・ブロカの『大盗賊』(61)のサントラ盤。ベルモンドとクラウディア・カルディナーレという僕の大好きな俳優が主演しているのに作品は凡庸。音楽も映画の内容に合わせて時代がかったものが多すぎて、「聴ける」のは4曲ぐらいだろうか。冒頭で紹介したセレクト集などに収められているのは、このあたりの良い曲だけ選んでいるので、そちらで聴けば充分。ちなみにドルリューは1925年フランス北部のリール県に生まれ、45年にパリ国立音楽院に入学、「フランス6人組」のひとりダリウス・ミヨーに学んで、49年、主席で卒業している。
hiroshima,mon amour二十四時間の情事 George Delerue /AUVIDIS distribution
タイトルもまんまだし、何だかよくわからないコンピレーション。こういうのがフランス本国で発売されているということは、本国でもオリジナル・サントラ盤の廃盤が多いということか。とはいえ選曲は悪くない。アリダ・ヴァリ主演でカンヌ映画祭グランプリを取った『かくも長き不在』(60)に使われたシャンソン(詞はコルピ自身)から『軽蔑』、『突然炎のごとく』、ルイ・マルの『ビバ!マリア』(65)、さらにはアラン・レネの『二十四時間の情事(Hiroshima, Mon Amour )』(58)まで収録されて、これはこれで他では聴けない選曲になっている。しかも多くが映画からそのまま落とした台詞入り、となると映画を観た当時の気分にワープすることもできて懐かしい気持ちでいっぱいになる。
Bandes originales des film de Francois Truffaut /Victor Entertainment
2003年春に渋谷のユーロスペースでの「フランソワ・トリュフォー映画祭」に合わせてリリースされた彼の映画のサントラ集。昔、〈シネ・ヴィヴァン〉での「アントワーヌ・ドワネルの冒険」という映画祭のパンフには評論を書けたが、今回は何もできずに残念だった。これほどのトリュフォー・マニアだと言うのに! 収録された14本の映画のうち、ドルリューが10本の映画の音楽を担当していることからも、いかにトリュフォー作品に彼の音楽が必要だったかよくわかる。『アメリカの夜』が抜けているのが気になったが。ジャケット・デザインで思ったが、ヌーヴェル・ヴァーグの諸作品もこんな風にフランス好きハナちゃん系デザインでないと売れない時代になってしまったのだろうか?
1000日のアン Anne of the Thosand Days /DECCA Records
1969年に製作された『1000日のアン』の当時のサントラ盤。主演は『まぼろしの市街戦』にも出ていた可愛らしいジェヌヴィエーヴ・ビジョルド。16世紀当時の英国の古楽を聴いている向きにはわかると思うがドルリューの音楽は、かなり忠実にこのチューダー朝的な雰囲気を出すのに成功している。B面にカップリングされたのはドルリューではなく、NEW YORK PRO MUSICAによる当時の楽器を使った本当の古楽。中学生の頃からバロック音楽以前のトルヴァドールやトルヴェール、あるいは16世紀英国宮廷舞踊音楽などに惹かれてきた身としては、このB面のほうが興味深かった。ジョン・ドウランド作曲の有名なリュート曲「FROG GALLIARD」は、絶対に古楽のCD売り場で入手すべき!
ファニー・アルダン TRUFFAUT/DELERUE /AGF
AGFってあのネスカフェを出しているところ。販促用だか何だか知らないがトロい(つまり凡庸な)クラシック・コンピも出していたが、これは案外レアかも。トリュフォーの『日曜日が待ち遠しい』(83)という、今話題のファニー・アルダン(がマリア・カラスを演じてもねぇ)を主演にしたイマイチ映画をメインにしているので、このCDもイマイチだが、100ページ近い、山田宏一先生監修のブックレット(一時期、トリュフォーがモーリス・ジョーベールの音楽に傾倒した理由など、いろいろ読み応えあり)と『アメリカの夜』や『私のように美しい 娘』(72)が収録されているのが魅力。中古盤屋にたまに出ます。
©Hitoshi Nagasawa 無断転載を禁ず。2003/11/30