ブエノスアイレス発の女性「音響派」ヴォーカリスト、というだけでも食指を動かされるが、実際、これはかなりの収穫だ。90年代後半からポスト・ロックだの音響系だのと騒がれるようになったが、シカゴのトータス一派、あるいはブリストル系などは知っていてもアルゼンチン派と呼ばれる音響派が存在していることは、このアルバムを聴いて初めて知った。モノ・フォンタナとかカブサッキというアーティストがアルゼンチン音響派として知られているらしい。このファナ・モリーナはブエノスアイレス出身だが、ボッサなどの要素はまったくない。いかにも音響系らしいさまざまな効果音的な音のフラグメントが交錯するなかで、単調ともいえるヴォーカルが流れていく。しかしどれもアンビエント感のある美しい曲だ。ジョン・ライドンがかつて殺した「ロック」と呼ばれるような音楽は、こういう方向で生き残っていくのだろう。