フューチャー・ジャズだ、ダウンテンポだ、ボッサ・ジャズだと、そのようなものに僕がハマっていた21世紀の始まり。その頃ミラバッシは、これほども「精神的」な音楽を創造していた。1曲目は先に紹介したライヴ盤の8曲目に入っていたものと同じ「El Pueblo Unido Jamas Sera Vencido」で、これはチリがピノチェトによる軍事独裁政権下だった頃に作られた反戦歌だという。ライヴ録音のときにはドラミングのセンスにも驚いたが、ソロで聴くとほんとうに泣けるほど美しい曲だ。このCDにはかなりの厚さのブックレットが付属する。塹壕の写真、バクーニンの肖像写真、フラワーチルドレンが兵士の銃に花を挿す写真、「赤い詩人」ルイ・アラゴンの写真、そして映画『苦い米』のワンシーン………歴史をある程度、知っている人間ならこれらの写真が意味するところがわかるだろう。ミラバッシは映画でヴィスコンティがやったことをジャズでやろうとしているのかもしれない。全16曲、ソロであってもまったく平坦にならない素晴らしい演奏だ。