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電子ブロックの個々のブロック。
スケルトン感が美しい。
70年代に流行った電子ブロックは、
学研大人の玩具として復刻された。
学研マイキットも科学実験玩具だが、
配線を変えて遊ぶもの。
学研マイキットもネットオークションで
高値を付けていたが、今は……。
アメリカで現在も発売されている
マイキットと同様の科学玩具。
上の写真も含めてアメリカのは
デザインも洗練されている。
アメリカで90年代まで発売されていた
「capsela」。これは最上級キット。
「capsela」もスケルトン感が
美しかった。元はトンボ鉛筆が開発。
「Cosmos2000」も科学実験玩具。
FM放送の受信などいろいろ遊べた。
 1998年、MacユーザーのあいだではAppleの出す新製品が、相当ユニークなデザインになるという噂が飛び交っていた。アメリカのMac Worldでその新製品が発表された直後、Appelのサイトで最初に写真を見たときは、たしかにぶっ飛びそうだった。検索しまくってjpegデータを集めまくった。造型もさることながらスケルトンという表層が何よりも気に入った。
 iMacの衝撃は1998年を「スケルトン」プロダクトの年にしてしまった。80年代にもスケルトンの電話機などはあったが、iMacのようなブルーの、あるいは半透明のスケルトン製品がこれほど氾濫した年はなかった。翌99年1月、似たようなブルーのスケルトンの玩具がネット上で限定発売される。お気楽にも販売開始2、3日後にネットで予約しようとした僕は、それがとうに売り切れてしまっているのに驚いた。こちらは「電子ブロックST-100」という1960年代に作られ始めた科学玩具の復刻版。ただし当時のものはあまり質の良くなさそうな透明プラスチックだったのが、復刻版はきれいなブルースケルトンで、箱もお洒落になっていた。ひそやかに売られたわりには、売り切れが早かったのは、iMac風ブルー・スケルトンのせいかパソコン雑誌にけっこう記事が出たからだろう。
 80年代に製造中止になった玩具が、一部の人たちに注目され始めたのは90年代後半のことだ。オムニボットなどの高価な電子ロボット、あるいはテキサス・インスツルメンツの「スピーク&スペル」、種々のエレクトリック・ゲーム。これらが当時「渋谷系」と呼ばれたような人が来るレトロな雑貨屋などにけっこうな高値で置かれるようになる。グラフィック・デザイナーにしてモンド系レコード店も経営する常磐響が、このあたりを趣味にしていて雑誌に紹介されたりした影響も大きい。電子ブロックもその範疇にあったが、科学実験玩具ということもあって、もう少し「オタク系」が入っていた。中野の〈マンダラケ〉あたりで電子ゲーム機と一緒に売られたりしていた。


●透明プラスチックから見えていた未来
 電子ブロックとは、そもそも1965年に電子ブロック製造株式会社というところが、売り出した玩具で、2センチちょっとの立方体のプラスティックのなかに配線があって、そのプラスティックのブロックの組み合わせ方によって何通りもの科学実験ができるというものだった。ラジオになったり、センサーになったり、さまざまな合成音を出したり、と。その後、学習研究社が権利を得て70年代からは「学研電子ブロック」として売り出されデザインも76年のEXシリーズからは当時、大人気だったソニーのラジオ「スカイセンサー」のようなデザインに変更された。スカイセンサー(72年当時で18,800円)は大学生以上でくらいでないと持てなかったが、電子ブロックは、玩具としては高価だったが小学生がこれでスカイセンサーを持つ大人の気分を味わえることも確かだった。実際、90年代後半の電子ブロック人気を担ったのもこの70年代の小学生世代である。
 電子ブロックは比較的息の長い商品だったが、似たような電子玩具は他にもあった。やはり他社で製造が始まり学研が権利を持った「学研マイキット」は、デザインは全く異なるものの、配線によってさまざまな科学実験ができるという仕組みは電子ブロックと同じだった。トンボ鉛筆が出した「カプセラ」は、透明プラスティックの球体に歯車などが組み込まれ、自動車やクレーンやボートなど何十種類もの可動物を作れた。もっとあとになって発売された高級な「Cosmos2000」は、透明カプセルのなかに基盤をはめ込んでFMラジオなども作れたが、何よりもそのデザインがかっこよかった。何かほんとうの実験室に置かれる器具か宇宙船のような感じがした。
 この時代、大人向けには「知的玩具」という言葉が宣伝向けに使われた。組み合わせでさまざまな実験ができたり、別の形態になってゆくもの。それは極論すれば「LOGO」が持ち込んだ「組み合わせ」という知的発想の発展形態だったと言ってもいいだろう。そしてスケルトンであることも重要な要素だった。透明プラスティックは未来を感じさせ、中が見えるのはいかにも「実験室」気分を味わえた。


●ネットで掘り当てる「宝物」
 個人的な話になるが僕自身は、インターネットがひろまる前からNiftyのBBSで8ビットの古いパソコンや電子ブロックなどを集めていた。そのうち電子ブロックが米国では、まだ売られているらしいという噂を聞いて、BBSで知ったアメリカで何でも探す仲介業をしている人(結局、日本人大学生がアルバイトでやっていた)に探してもらった。この人はすでにインターネットでアメリカ中から情報を仕入れていて、驚くほど安い手数料で絶版の美術本から玩具まで何でも探してくれた。そして日本ではとうに昔に絶版になり、アメリカでも在庫のみとなった「カプセラ」なども探し出してくれた。米国版「電子ブロック」は見つからなかったが、「マイキット」はアメリカで独自の進化を遂げていた。当時は「カプセラ」のことも「Electric Lab」のことも何も知らなかったし、BBSなので画像も見れなかったが、僕はどれも2個づつ購入した。ネットで売れば儲かると思ったのだ。
 「Capsela」はとんでもない進化を遂げて130種類もの可動物を作れる玩具になっていた。そしてインターネットの時代が始まり、アメリカのeBayのオークションを見たりしていたら日本でもYahooのオークションが活況を呈し始めた。「電子ブロックEX-150」や「マイキット180」などの上位機種は20,000円を超えるようになり、ぼくは2台づつ持っていたそれらとアメリカ輸入ものを、株の投資家のごとく高値で売り抜けて、家賃にも満たないくらいのちっぽけな利益で、自分での先見の明に悦に入っていた。もっとも商才がないから、その程度で悦に入ってしまうのは、いわずもがなのこと。
 そうこうしているうちに2000年に「カプセラ」が復刻され、雑誌『reluxe』で横尾忠則がカプセラに乗っている合成写真が掲載されたりした。電子ブロック製造(株)は、99年の1万台限定のST-100を再度生産するような気配をみせながら、それは発売されなかった。そしてYahooオークションで4年以上も高値を続けている電子ブロックのことを学研は、意に介してもいないようだった。その電子ブロックが02年、学研の書店販売の「大人の科学」のシリーズのひとつとしてやっと復刻されたとき、遅きに失したと感じたのは僕だけだろうか。
 僕がネットオークションとその「市場」から学んだのは、モノの相場についてだった。クリスティーズのような老舗の高級オークションでは一品がその場で売られれば、それで終わる。だが、ネット上のオークションは大量生産品がメインで、しかもそれらが次から次へとアップされてゆく。今、買わなくとも同様の製品がまた出ることもあろうし、もしかしたら値も下がっているかもしれない……、そう考えて長期的にいくつかのモノをチェックしてゆくと株式相場同様の商品「相場の推移」がここに見て取ることができる。どの商品が落ち目か、あるいは次にくる「目」は何か? 景況予測のようなことも出来ないわけではない。モノを売る側に立って考えれば、市場予測はいくつかのブックマークで可能というわけだ。
 ここ数年の科学玩具の復刻の時期が正しかったのどうか? ネットがあらゆる過去の遺物を掘り出してしまうこの時代。「宝物」の在処を探り当てるのもまた、ネットでの動向をチェックし続けるしかない。

© Hitoshi Nagasawa 2002
初出誌『INTERNET MAGAZINE』2002 / 9

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© 長澤均『INTERNET MAGAZINE』2002年9月号

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